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私が坂野さんの作品を初めて購入したのが、画商として独立し た頃だから1997年だったと思う。画商仲間から数点の坂野さん の作品を見せられて私が感じたのは、白洲正子請うところの語 り合えるもの「やっ、こいつは魂を持っていやがる」とまさにそ のものであった。 当時、私が購入したものは自画像として永遠のテーマでもある 哀愁をただよねせる「ピエロ」作品や宗教画のような荘厳さがあ る「陽」作品などだ。買い求めてじっくり観れば観る程に熱烈な る魂の告白が感じられ、画家の言いたいことが伝わってくるの である。本当にいい絵とはそういうものだ。 芸術とは熱烈なる魂の告白である、といったのは私の最も好き な画家ジョルジュ・ルオーである。
だから、単なる美しい絵やどんなに被写体が上手に描かれていても、魂の告白が感じられない 絵は好きになれない。
魂の告白とはたぢ精魂込めて絵を描けばよいというものではない。芸術家としての使命感に 加えて、描く対象やテーマに対する熱烈な想い入れやこだわりが動機となって理知的に吐露 されていなければならない。人間の心を打つ名画とは、創作者のやわでない生き様(精神世界) が水準を超えた技術に裏付けられて告白となって生まれてきたものである。
私が独立して間もない頃に坂野作品の将来性を察知し買い求めて、既に顧客に販売し嫁に出 したにも拘らず、数年を経ても未だ心に残ってはなれなかった。地元・広島県出身でもあるし、 どうしても個展を開催して私の手でプロデュースして世に広めたくて、とうとう私のほうか ら連絡を取った。
2001年の春に、坂野さんに三次まで足を運んでもらうと、駅前のrぎゃらり-M」を見てもらい、 私のLA・VERVE画廊へ招待した。聞けば、坂野さんの息子さんと私は同い年で、親子はど歳のは なれた画家と画商の二人三脚のドラマがこの時から始まったのだ。一緒に酒を交わし話して いくうちに、画趣から受けるイメージと少しも変わらぬようなまっすぐな人柄に接し、何を描いてもその人自身が画布にでてしまう『絵は総て自画像である』とする私の主観がここでも 確認された。
絵は写実を超えた時はじめて絵になるのだ。
画家はそのために格闘する。坂野さんの絵は現地に赴きイーゼルを立てて制作するいわゆる 現場制作主義ではなく、アトリエで完成させる心象風景だ。デッサンは必要最小限の線であま り多くを描かず、色数は全部で6色しか使わない。マチエール(絵肌の処理)は、色彩の深みを出す ために絵の具を重ね徹底的に押しに押し込んで盛り上がっている。テーマはピエロ、海、陽、椿 、教会--と画家の生涯テーマとしてすべてが魅力的。深く落ち着いたタッチは、明治後期から大 正初期の作品を坊沸させ、対象の表面ではなく神髄の色を描き出そうと作品は一点一点丁寧に 仕上げられ、完成までに一年以上かかるという。額も作家の手作りで古木を削り、模様を刻んで ニスを塗る入念な作業に坂野さんの人柄が現れている。 DMに使用した「厳寒の富士山」 は、現在の厳しい日本経済状勢下で、ひるむことなく孤独で雄々しく立ち向かう画家の勇姿を 見ているようだ。白、黒、ビリジャン、たったの3色でこれだけの表現に成功している。坂野さ んの描く色数はどれも極めて少ない、そしてその少ない色数で最木の効果を上げることのでき る数少ない人間画家でもある。
良い絵とはテーマ、構想、デッサンから始まり、省略、デフォルメ、マチエール、タッチ、線描、 色価、構成、様式、直感、気力などすべてのものがバランスした時、計算を超えてできあがるの である。それでこそ絵画芸術として真に意味のある作品となる。又、良い絵というものは命懸 けで描くものだ。モディリアニ然り、佐伯祐三然り、荻頚高徳でさえ滞仏50年、フランス人以上 のフランス人になり切ってパリの街並みを描いてパリで逝った。命懸けとはそういうことである。坂野さんの描く絵や生き様は以上の良い絵の条件を全てみ たしている。だから私は初めて坂野さんの作品を購入して以来、ずっと魅かれ続けてきた。 そして今回第2回目の個展「魂の画家・坂野昭文新作油彩画展」を開催することができて本当に嬉し い。
坂野さんはいう「人生やっている人みんな芸術家だと思います」また、 「タダ、タダ、絵を描く だけ」と-・。 『へたも絵のうち』とは、熊谷守一の著書の題名である。その意味では、守一も 坂野さんも生き方が無器用だ。そして、無器用だからこそ滋味豊かで、人の心に染み入る絵が描ける。 時代はいま大きく転換を開始した。昨年の日本の美術オークション市場は、 150億円規模に大 躍進し、バブル期を妨沸させるほどの展開で幅広い社会からの関心の深まりがあった。消費者 はあらゆる市場で賢明となり、本物の価値に気付きはじめている。いよいよ魂の画家・坂野昭文 にも出番が回ってくる。
2005年個展あいさつ文より掲載
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